エカテリーナが運んできてくれた薬草のお陰で大量の薬が作ることが出来た。濾過した薬は一見苦みがなさそうな透明な水のように透き通っている。その薬を見たときの王の顔は酷く傑作だった。薬特有の匂いもないせいかただの水ではないかと勘ぐられたほどだ。だが、リオーフェがその薬を寝ているルーベンツ王子に飲ませると乱れていた呼吸が直り、顔色も良くなった。その様子にリオーフェは内心安堵した。これでこの城にいる必要もないのだから。リオーフェは作った薬を持ちながら国王に向き直る。近くにいた兵士に三つほど瓶を渡す。
「この薬を三日三晩一口ずつ与えていれば良くなるでしょう。本当は一瓶でも良いのですが、それは予備です。他の人が同じ病気に掛かったときそれを与えれば大丈夫です」
それでは私はこれで失礼します。と、机の上に小瓶を二つ置くとそのまま出ていこうとするリオーフェとエカテリーナに国王は待ったと声を掛けた。その視線は明らかにリオーフェが持っている薬に視線が向けられていた。
「その薬をどうする気だ」
「……何が言いたいのですか?」
「その薬で作った薬草は王国の物だ。薬を作ってくれと頼んだが持ち帰っていいとは言っていない」
「……」
呆れるような理由を並べる国王に呆れたような視線を向けるリオーフェ。救いようが無いというのはこの事だろうか。
「初めに申し上げたはずです。私は白き魔女として此処にやってきたのだと。貴方の息子を助けるためではありません。この王国で病気に掛かっている者を助けるために此処までやって来たのです。国王は苦しんでいる民を助けないのですか?重い税金を払いこの国を支えている国民を見殺しにするのですか?欲が深い人間ほどその身を滅ぼすと言いますがその通りのようですね」
貴方はそのうち死にますよ。今ここで国民を見殺しにするというので在れば。
感情を一切感じさせぬ声音が響く。だが、その声は何処までも真剣だ。国王がこの国の国民を助けないと言うのなら自分が殺すと言わんばかりのニュアンスも感じられる。沈黙が振り注ぐ中、今まで沈黙を続けていた第二王子のレオンが初めて口を開いた。鋭い瞳が国王を貫く。
「国王、ここは白き魔女の言うとおりにしましょう。このままでは国民は死に絶えてしまいます。それでは国の繁栄も滞ってしまうことでしょう。ルーベンツ兄さんも助けてもらったのです。そのぐらいは良いでしょう?」
「ううむ。……お前の言うとおりだな、レオン」
ポツリとこぼれ落ちた言葉にリオーフェは再び歩き出す。
「だが、一つだけ条件がある。俺も一緒に行く」
「?どう言うことですか」
怪訝そうに呟くリオーフェを余所にレオンは真剣な眼差しをリオーフェに向ける。
「お前が国民を助けるかどうかしっかりこの眼で見届けるんだ」
「どうぞご自由に」
興味が失せたように視線を逸らすリオーフェ。そんな姿にエカテリーナはコロコロ笑いながら部屋の外で護衛兵として控えていたクロエルを見つけた。ふいに面白いことを思いついたようにエカテリーナは大げさに呟く。
「白き魔女、この国の国民にとって私たちは随分と嫌われ者よ!そんな場所に行ったら私たちの命が危ないかもしれないから護衛兵を少しばかり借りていきましょう」
「え、では……黒き魔女にお任せしますわ……」
「そう。じゃあ、貴方、一緒にわたくしたちと来てもらえるかしら?」
「御意」
「……」
明らかに態とだろう。と言いたくなるのをグッとこらえる。本当にこう言うときばかりは悪知恵が回転するのが早い。クロエルの姿を見た瞬間にこんなことを思いつくなんて彼女ぐらいだ。これは何だ?新手の嫌がらせか?何にも知らない人から見れば近くにいた護衛兵を引っ張ったようにしか見えないが、リオーフェにとっては嫌味にしか見え無かった
もしわけ程度に頭を下げるとクロエルが構いませんと小さく首を振ったのを見て安堵する。そんなに気にはしていないようだ。安心した。その様子をチラリと見つめるレオン。何か感づいたのだろうか。そんな風に窺われているとは思わずリオーフェは歩いていく。大理石で出来た廊下はとても豪華だ。此処に来たときも無駄に税金を使っていると感じた。だが、王国の王宮なのだから仕方がないと思う自分自身も居た。
だが、あの国王の科白だけは絶対に許せない。
「まずは何処から参りますか?白き魔女」
「城下町で一番広い大広場へ。そこなら情報も広がるのは早い。病人のための薬と聞けば嫌でも耳にはいるでしょう」
その通りの言葉にエカテリーナは頷く。これからが本番である。
救世主は聖母なような微笑みを称える。
戻る/
トップ/
進む