評議会(サバト)は無事に終了し、誰もいなくなった部屋の中でエカテリーナとリオーフェは向き合っていた。とても静かな空間と化したその部屋はリオーフェにとって居心地の良いものだったに違いない。元々人と付き合うのがあまり好きではないリオーフェは一人を好み、望んだ。
それは過去の血塗られた記憶のせいでもあり、教訓とも言えよう。再び大切な者を作り、失うのは懲り懲りだ。無機質な瞳を向けているリオーフェにエカテリーナは薔薇のような唇を微かにつり上げると優しく微笑む。どこまでも綺麗で優雅な笑みだ。先程仲間だった者を一人罰した人物とは思えない。
リオーフェは静かに口を開いた。
「エカテリーナ様は何故私がカミューラ様に襲われたと知っていたのですか?」
「ふふふ。それは企業秘密よ。といっても確信は無かったから一か八かの賭よね」
まあ、結果的には合っていたんでしょうけど……。そう呟くとエカテリーナは綺麗な眉を顰めリオーフェの髪を撫でた。白く、長い指が何度もリオーフェの髪を撫でる。その度に心が和むのが分かった。
何時からだろう。こうして人と関わるのを拒むようになってしまったのは。この方は自分の意志など関係なくどかどか踏み込んできた。最初こそ嫌がっていたが、自分が本当に嫌がるところまでは踏み込んでこなかった。多分気づいていたのだろう、最初から……すべて。それでいて自分と関わろうとしてくる人物なんて珍しい。
「ですが、エカテリーナ様のお陰で助かりました」
ありがとうございます。と、律儀に頭を下げるリオーフェに満面の笑みを浮かべながら答える。鈴が転がるような声が響いた。
「これで貴女も晴れて72代目、白き魔女を名乗れるわね」
「はい」
「喜ばしい事じゃないの。本当ならすぐになれたものをあの雨蛙が……」
思い出したかのように悪態をつくエカテリーナ。そんな姿は何時もと少しも変わらず思わず苦笑する。何処までも我が道を行く人なのだと思った。そんなリオーフェを尻目に甘えるような声音が響いた。
「私、一ヶ月もリオーフェの紅茶やお菓子を食べてないわ」
「それは……まあ、出掛けていましたから」
「そう言うことだから、ね?温かいアールグレイとマフィンでも作ってくれるかしら?」
「……わかりました」
まったく、自分が帰ってきた途端これだからな。と、苦笑しつつも歩き出す。その顔に浮かべられた笑みは何処までも優しいものだった。
こんな顔を他の人には見せられないと感じつつも顔を隠すリオーフェ。アメジストの瞳は伏せられ、長い睫毛が頬に影を差す。そんな姿はまるで15歳には見えなかった。身に纏う雰囲気は大人び、だが、何処までも突き放すような冷たさがあった。
ちっとも子どもらしくないリオーフェにエカテリーナは笑う。
「ねぇ、リオーフェ」
「何ですか?」
「……ううん。何でもないわ。それより早く行きましょう?」
もう待つのはうんざり!そう言いながら足早に部屋を抜け、階段を降りていくエカテリーナを瞳で追う。居心地のいい空間から身を引くのは少し淋しかったが、仕方がない。
誰もいなくなった扉を閉ざすとリオーフェはその後を追いかける。
一人の魔女がいた。
魔女は自らを白き魔女と名乗った。
夢は今も終わらない――
何故ならばそれが始まりでしか過ぎないのだから。
世界に平和が訪れたのはきっと君のおかげ
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