水面下の花びら 1
夕食を食べた後、ミランナは用事があると言って出ていってしまった。
残されたのはレインとアリシアだけ。
こうやって二人っきりになるのは久しぶりだ。
そして同時に怖いとすら思う。
何を話せばいい?何を語ればいい?何を――――
………だんだんばか莫迦しくなってきた。
アリシアはスッと椅子から立ち上がると外に出ようとする。
その様子にレインは不思議そうに言った。
「何処に行くのですか?アリシア姫」
「ちょっと外の空気でも吸いに行くのよ」
「では、私も行きます」
「…………勝手にして……」
後ろから付いてくるレインにアリシアは内心ため息を付きながら外に出る。
ひやりとした空気が身体を纏う。
ふと、空を見上げればそこは星の海だった。
彼方此方に散らばる星たち……
こんなに綺麗な夜空を見るのは初めてだ。
「綺麗でしょう」
「ええ……」
突然声を掛けてきたレインにアリシアは内心驚きながら素直に頷く。
クロレストラ王国の辺りもよく星が見えることで有名だが、
この場所はそれ以上だ。
手を伸ばせば届きそうな感じすらする。
アリシアがゆっくりとした様子で空に手を伸ばせば、レインが急に後ろから抱きしめてきた。
突然のことに驚き、目を見開く。
だが、レインはゆっくりと言った。
「久々ですね、こうして二人きりでお会いするのは……」
「…………………」
「アリシア姫、私のことが嫌いですか?」
「…………………」
「黙らないで下さい。私は本当の言葉が聞きたい。
今の様子のアリシア姫から嫌いだと言われたって信じられません」
「……………っ」
「答えて下さい、アリシア姫」
責めるように聞いてくるレインにアリシアは
何と言っていいのか分からなくなってきた。
何と答えればいい?
あんなに嫌いだったのに、
あんなに側にいられるだけでむかつく存在だったのに――――
今はこんなにも愛おしい……
「…………あのね、レイン……私は――――」
ゆっくり呟かれた言葉。
風が優しくアリシアの髪を撫でる。
どうしてこんなにも好きになってしまったのだろう。
細められた瞳からは一粒の滴がこぼれ落ちた。
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