素敵な晩餐会   4









「なあ、一つ聞きてもいいか?」





山のような書類に埋もれながら男は言った。
どうやら何か言いたいらしい。ローレシアは顔を上げると男を見る。
だが、その手は器用なことにも書類に印鑑を押し続けている。
二、三枚書類の処理が終わった頃、漸く男は言った。





「ずっと逃げ回っていたようだけど、何処にいたんだ?」



「……なんだ、ロードに聞いてないの?」






意外そうに目の前にいる人物を見つめる。
とっくの昔に聞いたと思っていたのだが…どうやらいってなかったようだ。
肩を竦める男にローレシアは笑いながら言った。





「そんな楽しいものじゃないよ。見つかったら強制連行だし、
見つからないように過ごすのも楽じゃないからね。ま、気楽に過ごせて楽しかったけど」






何処までも暢気な言葉に男は静かにため息を付く。
何者にも囚われず、何処までも気ままに過ごす。
その言葉はまるで彼女のためにあるような言葉だと思った。
その後も黙々と仕事を片づけていく彼女を眺めていると、誰かが入ってきた。
銀色の長い髪が揺れる。相変わらずの年齢不詳の童顔にローレシアは静かに笑った。





「あら、先に帰ったんじゃないの?ミランナ」




「私だけ先に帰って仕事をさぼるのはよくないからね」



「あら、偉いこと」






ローレシアの嫌味にも屈することなくにっこり笑いながら言い返すミランナ。
そのまま近くにあった開いているソファーに座り込むと書類を手にした。
随分前からある書類だ。
どうやらローレシアが帰ってくるまでとっておいたらしい。
ミランナは微かに笑うと言った。






「ここにアリシア姫を連れてきたのは何か考えがあったからでしょう?」




「あらー、何のこと?」




「惚けなくても良いのよ、ローレシア」







にっこり笑っているもののその迫力は凄まじいものがある。
流石のローレシアも怯みながら内心悪態付いた。




(全く、レインと同じくらい黒いんだから……)






ローレシアは諦めたかのように手を挙げると言った。








「アリシアちゃんを連れだしたのはレインを虐めるためもあったけど、
なんかアリシアちゃん色々悩んでいたみたいだし、その手助けって言う意味で―――」





「ただ逃亡のために使えると思って連れてきたんでしょう」



「はい。その通りです」




「まったく、ローレシアらしいわね」







呆れたように言い切るミランナにローレシアはお前はどうなんだよ!
と、突っ込んでいた。







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