海の底一騒動   2









まるで子どものように純粋な笑顔で礼を告げてくる
アリシアにローレシアは呆れた気持ちになった。


これでも一国の姫君か。と、言いたくなる。
本当、まるで汚れを知らぬ子どものようだ。
思わずローレシアは照れ隠しで莫迦。と言ってしまう。



素直になれないのは年のせいかもしれない。
そんなことを苦笑しながらローレシアは思った。




「ローレシア様、それよりこのセイレーン達をどうするおつもりですか?」



「ああ、そう言えばまだセイレーン達が残っていたんだっけ?」




思い出したかのように呟くと、その場で唖然としていたセイレーンに向き直る。




「貴女、ルーナよね」



「そうよ。文句でもあるの?」





気の強そうなセイレーンはそう呟くと、キッとローレシアを睨み付ける。
その瞳には強い光を宿していた。
ローレシアはその様子にため息をつきながら言った。




「あのね、何でわざわざ人間を食べているのかまでは追求しないけど、
この子を食べるのはやめときなさいよ。後で悪魔が此処にやってくるから」




「悪魔?」




「そ、この子を超ー溺愛している男がいるからさ。聞いたこと無い?
天才魔術師レインってヤツ。あれだよあれ」



「レインってあの………」






流石にセイレーンの中でもその名は有名だったらしい。
驚いたように瞳を見開くルーナにローレシアはにっこり笑った。




「と、言うことでアリシアちゃんは連れて帰らせて貰うわよ。
貴女達をこの場で殺さないだけ有り難く思いなさいよ?」




ローレシアは軽い口調でそう呟いたが、実際はかなり恐ろしい。
流石にそれが脅しではないと分かったのか、
ルーナも悔しそうに顔を顰めるだけで何も言わない。




ふと、ローレシアは思い出したかのように言った。




「そうそう。貴女、命拾いしたのと後一つ。
海を汚されて怒っているのなら人間を食べるのではなく、ちゃんと言った方が良いわよ?
人間だって言われれば分かるわ。尤も分からないヤツには鉄拳が飛ぶけどね」




「…………なんで……それを……」




「見てれば分かりますって。伊達に長く生きてないよ。昔に比べ海は汚くなったからね。
何なら今度私が手助けしてやるよ。どっかの王を脅すのも楽しそうだしね」




気味悪く笑うローレシアにロードスが呆れたようにため息をつき、
ローレシアを置いて行くかのようにアリシアだけ引っ張っていく。
その様子にローレシアはこりゃ酷いやつだね。と、呟くとその後を追いかける。





汚くなった海に少し希望が見えた瞬間だった。






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