海の歌姫セイレーン 3
アリシアはご機嫌で海を眺めていた。
青い海、ユラユラと揺れている姿はとても見ていて飽きない。
最近汚染が酷くて、海が汚くなりがちだが、此処はまだ綺麗なようだ。
アリシアは微笑みながらその様子を楽しそうに見ていると、
ふと、急に綺麗な声が聞こえてきた。
それは何処までも響きそうなソプラノ声で………
「綺麗な歌声‥‥‥」
うっとりした様子でアリシアはそう呟いた。
まるでセイレーンが歌っているようだ。ん?セイレーン……?
アリシアは頭の中でその名前を繰り返すと、驚いたように海を再び見る。
そこには数人の綺麗な女性が居た。
と、言っても海の中からこちらを覗いているような感じで………下半身が見えない。
もしかしてマーメイドなのか?
不思議そうに首を傾げていると、一人のセイレーンが呟いた。
「あら、あの子私達の歌を聴いても大丈夫みたいね」
「ホントだわ。しかも凄い魔力の持ち主。持ち帰って食べましょうか」
「そうね、意外と美味しそうだし、美容にも良さそう」
次々にそう呟くと、再びアリシアに向き直る。
その瞳は先程とは違う光を宿していて…………
「キャァァァァァァ」
アリシアが叫んだ瞬間、いつの間にか海に放り出されていた。
しかもセイレーンにガッチリ捕まえられている。
「離しなさいよ!!」
「あら、元気のいい娘っ子ね。とーても美味しそう」
「イエ、私なんか食べても美味しくないよ?」
思わずその言葉にアリシアは青ざめると、首をフルフル振ると、そう呟く。
だが、セイレーン達はクスクス笑うと言った。
「そんなこと無いわ。きっと美味しいわ貴女は」
「やめてー」
そう叫ぶが既に時、遅し。アリシアはガッチリ掴まれたまま海中に引きづり込まれる。
私……船も苦手だけど、更に泳げないんだわ。
アリシアは頭の中でそんなことを考えながら沈んでいった。
正確に言うと引きづり込まれていった。
上の方ではまだ他のセイレーン達が歌っている。
きっとあの船を沈めるつもりなのだろう。
ローレシアやロードスは大丈夫かな?
魔術師だし、きっと海の上歩けるよね?
ちょっと外れたことを考えながら意識を完全に手放した。
そこは暗い、暗い海の底――――――
そこは海とは全く別の場所にも思えた。
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