海の歌姫セイレーン 1
あの後、何とかローレシアから逃れたアリシアは、
グッタリした様子で柵に寄り掛かっていた。
船に乗るのは久しぶりだ。
しかも船酔いせずに乗っていられるなど……
「幸せかも」
アリシアは満面の笑みで呟く。
よく考えれば何時も船酔いしていて景色など見ている余裕すらなかった。
だが、今は思う存分眺められる。
これを幸せと言わず何という。
「随分と楽しそうですね」
いつの間にか近くに来ていたロードスがそう呟く。
流石魔術師………気配が全く感じられなかった。
などと、アリシアは思いながら微笑む。
「ロードスは船酔いとかしないの?」
「私は大丈夫です。そう言うのには強いですから」
「ふーん」
「それよりアリシア姫は何故アルテイルスに行くのですか?」
その質問にアリシアはキョトンとした後、怪訝そうに言った。
「あれ?ローレシアに聞いてないの?」
「ええ、聞いたのですが、本人に聞けと言われまして……」
「そっか…私がアルテイルスに行く理由はこの姿を戻してもらうためよ」
「――――姿?ですか……」
「うん。何か元の姿に戻すのには特別な魔法薬がないと直せないとか……」
「…………………」
「どうしたの?黙り込んじゃって……」
アリシアの言葉に考えていたロードスはにこやかに微笑むと、
少しローレシア様の所に行ってきますね。と、いいその場を後にした。
全く、慌ただしい人だ。
それにしても………
「気持ちがいいなー本当に」
アリシアはご機嫌そうにそう呟いた。
一方のロードスは慌ただしい様子で
ローレシアがくつろいでいると思われる客室のドアを開いた。
そこには案の定、昼間からワインを開けているローレシアの姿があった。
「昼からワインは駄目です」
そう言うと、ロードスはローレシアからワインを奪い取る。
あからさまに嫌そうな顔をするローレシア。
だが、すぐに表情を変えると言った。
「ま、いいや。で、何でそんなに慌てたんだ?」
「あ、そうですよ。アリシア姫に嘘をついたでしょ」
「んー?何のこと?」
面白そうに顔を傾げると、そう呟く。
この確信犯目!内心そう思いながらロードスはため息をつく。
本当、良い度胸をしている。
思わずそう思ったのは秘密。
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