静かに揺れる思い出の心   3









次の日、アリシアとゼバイル、シリアは馬車に乗り
一度クロレストラに戻ることとなった。

理由は様々だが、一番の理由はアリシアが戻ると言ったためである。
本来、レインを捕まえるまで戻らない予定だったのを変更してまでそう言いきったのだ。


無表情でそう呟いたのだから恐ろしい。



何時もと雰囲気を違うアリシアにシリアとゼバイルは顔を見合わせた。
こんなアリシアを二人は見たことがなかった。
まさに真っ黒、腹黒……血は争えないと言うことだ。


それより―――――
と、呟くとゼバイルは声を抑え、シリアに話しかける。




「どういうことだ?アリシアの様子がおかしいが……何かあったのか?」



何か知ってるんだろう?
と、問いかけてくるゼバイルにシリアは瞳を細めた。
まさかフェイル王子に振られたのがそんなにショックだったのだろうか?
それにしても様子がおかしい。



「うーん、いまいち分からないわね………」




こればっかりは降参とも言いたげにシリアは顔を背ける。
何がアリシアをそこまでにしたのかは分からないが、
兎に角今の状況は余り良くないのは分かった。




「ま、城についたら何かわかるかも知れないけど」




シリアはポツリと呟くと窓の外をジッと眺めているアリシアを見た。
その顔からは表情というモノが全く感じられない。
まるで感情を押し殺して居るかのようだった。




「本当に大丈夫かしら?」




アリシアちゃん……と、小さく呟くとシリアはため息を付く。
揺れる馬車の中、沈黙だけがその場に漂った。

















どのぐらい経ったのだろうか?

漸くクロレストラ王国に着いたときは日は暮れ、夜になっていた。
久しぶりに見る城にゼバイルは瞳を細める。

たった週週間しか離れていなかったというのにこんなに懐かしく感じるとは―――
不思議なものだ。


ふと、シリアが急に一人、別の場所から入ろうとするため、
ゼバイルが怪しむように見るとシリアが小さな声で呟く。



「私はこの城から出ちゃいけないことになっていたのよ?
一緒にいたら抜け出したのばれちゃうじゃない」




いや、もうばれてるんじゃ無いのか?


などとゼバイルは思ったがあえてそれは言わないでおく。
スルリと入り込んだシリアを確認した後、ゼバイルはドアに手を掛けた。
そして城に入ろうとした瞬間、勝手にドアが開き、見慣れた女性が立っていた。




「お帰りなさい二人とも」





優しい声にゼバイルの心が和むのが分かる。
優しい笑みを浮かべると返事を返した。




「ゼバイル只今戻りました、ダリアお母様」

「同じくアリシア、只今戻りました」


「よく無事に戻ってきてくれたわね、二人とも。
あと、このお莫迦さんを連れ帰ってきてくれて有り難う」





よく見ると、ダリアの後ろにはシリアが捕まられている。
やっぱりばれていたようだ、城を抜け出したのは。
呆れたような表情をするゼバイルに対し、シリアの表情は引きつっている。
だが、アリシアだけは違った。


真っ直ぐダリアを見つめると真剣な表情で告げる。




「ダリアお母様、大切なお話があるのですが宜しいでしょうか?」


「ええ、良いけど……どうしたの?そんなに怖い顔しちゃって」


「……………先に客室の方で待っていますからすぐに来て下さい」




そう呟くとアリシアはその場をそうそうに去る。
それを見ていたダリアは困ったように二人に視線を向けた。



「どうしたの?アリシアちゃんは?」


「さぁ……俺にも理由が分からないから困っている」


「ほんと、まるで別人のようだわ」




ゼバイルとシリアの言葉にダリアは深刻そうな顔をすると、
アリシアが待っていると言った場所へ向かう。

二人とも自然とダリアの後を追いかけていった。










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