静かに揺れる思い出の心   2









一面の星空を眺めながらアリシアは静かに笑う。
まさかフェイル王子と一緒にこうして並んで空を見上げることが出来るなんて…



「良いんですか、お姉さまに告白しなくて…」




確か好きな人は居ませんけど?
と、呟くアリシアに微妙な顔をしたフェイルが呟く。



「まぁ、それは分かってるんだけど……
告白して一瞬で撃沈するのもなぁ………」



苦そうな顔をするフェイルにアリシアは呆れたような顔をする。
そしてキッパリと言ってやった。



「そんなこと言っていたらお姉さま、誰かに取られちゃいますよ?
ただでさえモテモテなのに……もしかして今も告白なんかされちゃったりして―――」



「それは困る」



と、呟くとフェイルはスッとその場を後にする。
どうやら頭の中を閉めているのはシリアお姉さまのことだけのようだ。


アリシアはクスリと笑うと再び空を見上げる。
何処までも広い空――――
ふいにアリシアは思った。


自分の恋は上手くいくのだろうか?



レインは確かに自分を好きだと言った。
だが――――信じられるのだろうか?そこまで……
いや、信じなければ…レインのことを……



ふと、視線を逸らすと、人混みの中で目だった銀色の髪が揺れる。
レインだ。
何時の間に戻ったのかは不思議だが、それはあえて聞かないどこうと思う。
それより今はこの気持ちを伝えよう。

彼はその時どんな顔をするのだろうか?
嬉しそうな顔?




それとも―――――――――





一歩踏み出した瞬間、アリシアは表情が固まるのが分かった。
瞳が大きく見開かれる。

その視線の先には確かにレインが居た。
だが、女性連れだ。



赤みがかった長いロングストレートの髪に翡翠色の瞳。
パッチリとした瞳がよりいっそう可愛く見える。
薄いピンク色の口紅をつけた唇はとても綺麗だ。



何処かで見たことがあるような気がするのに思い出せない。




いや、その前にその隣にいる女は誰だ!
叫びそうになるのをグッとこらえ、アリシアは怒りに顔を歪める。

それにしても楽しそうにお話になって………



ふーん、そう言うこと。



結局、嘘だったと言うことだ。
思わずアリシアは冷たい瞳をしながら二人を見つめた。
良い度胸してるわ彼奴…

今此処で瞬殺してやっても良いけど、それは流石に大人げないから止めておく。
いや、この際もうレインと付き合うのはやめだ。

いちいち追いかけるのも疲れた。


なーにが好きだ、愛してるだ……結局他の女と楽しげに歩いちゃって……
仲がお宜しいことで。



もう絶対あの男とは話も聞かないし、口も聞かない。
絶対よ。これは私なりの意思表示ですから。



………兎に角、一回クロレストラ王国に戻って、婚約破棄をしたら
自分で元の姿に戻る方法を探そう。


魔術師なら他にもたくさん居るのだからそれぐらい出来るはずだ。




「さようなら、レイン王子。二度とお会いしないとは思うけど」




アリシアは小さな声で、だが、はっきりと呟くとその場を後にした。
その瞳には何も映ってはいない。
感情を感じさせないほど冷たい瞳だった。


ふいに空を見上げる。



今まではとても綺麗に見えていた空が今は歪んでよく見えない。




「嘘吐き」





アリシアは泣きそうな声で呟く。
それは彼女にとってあまりにも残酷な仕打ちだった。












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