静かに揺れる思い出の心   1









『私は――――フェイル王子……貴方が好きでした』





その言葉を聞いた瞬間、フェイルは何処か淋しそうな表情を浮かべると、
ゆっくり瞳を閉じると言った。



「……過去形なんだね……」


「ええ、私はもうフェイル王子が好きではありませんから。
でも、大切な人にはかわりはありません」




凛としたアリシアの言葉に一瞬フェイルは瞳を細めるが、
何事もなかったかのように言った。




「で、俺はこの返事をした方が良いのかな……?」


「是非お願いします。私はこの恋が終わらないと先には進めませんから」




キッパリとした口調で喋るアリシアにフェイルは口を閉ざす。
そして、深呼吸をすると覚悟を決めたかのように言った。



「その気持ちは嬉しい。だが――――俺が好きなのはシリア姫だ。
アリシア姫のことは大切な妹にしか思えない……」



「―――――――知っています。フェイル王子がお姉さまを好きだって事は…
だからこそ諦めきれなかった。て、言うのもありますけどね。
………私、昔からよくお姉さまに比べられて嫌でした。でも――――
あの時、フェイル王子は言ってくれた言葉は今も忘れてないんですよ?」



「あの時?」



あの時言葉―――――それは心から消えることはなかった。




『―――君はシリア姫とは違う人間なのだからそんなに自分を嫌うことはない。
十分君だって魅力的な女性だよ……』



『―――――――――っ!」




その言葉がどれだけ嬉しかったか…
あの時、泣きそうになったのを必死で堪えたのを覚えている。
その時から自分の恋は始まったのだ。



でも、それも終わり……
今、自分の手で全てを終わらせた。




「知ってる。それも……フェイル王子がシリアお姉さまが好きだって言うことも
それでも私は貴方が好きだった……でも―――――」




もう、思い続けるのは止めた。
思い続けるのはとても疲れるモノ……
それに、今の私が一番に思うのは―――――

レインだから‥……




「……有り難う御座います。やっと心が晴れ晴れとしました。
これで私はまた一歩進めます。思い出を踏み越えて――――――」



「アリシア姫………」





だからもう、振り返らない。そう決めたの。
自分自身のために……だから、だから―――――




「フェイル王子こそシリアお姉さまを落とすの頑張って下さいね。
お姉さまはなかなか手強いですよ」



「………知ってるよ、それぐらい」




それはとても優しい笑みだった。
今まで見たことがないぐらい優しい笑み。



二人は暫くの間、何も喋らずに夜空を見上げていた。












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