性悪魔術師VSシスコン兄   1








言葉もない。とはこの事だろう…
アリシアは目の前で固まっているゼバイルを見つめ、ため息を付いた。

確かに元に戻っているのは嬉しいが、この状況で現れるのはあまり好ましくない。



現に、レインを思いっきり睨み付けているし……




アリシアはどうにかして逃げようとするが、
レインの腕は振り解けそうにもない。


もがけばもがくほど、力が強くなる一方だ。




―――この野郎…わざとやってるな…!




怒った様子でレインを見ればただ何とも言えない笑みを返された。
その時、地を這うような低い声が聞こえた。





「おい、何でお前がいるんだ…極悪魔術師」




それはとてもとても冷たい瞳。
まるで氷の様な冷たい瞳だ。

地獄の底から沸き出すような声はアリシアが一度も聞いたことがない声だった。



―――――こわ!………此処まで怒ってるとは……



絶対巻き込まれたくないアリシアは逃げ腰になるが、
それでもレインは離してくれない。



ここは一つ。



ゼバイルお兄さまにでも助けを求めるか……




「お兄さま〜助けて!」




「アリシア…悪いが其処の魔術師を殺すまでこの怒りは収まりそうにない」




「え?」




なんか――――話の内容がずれてるような……
咬み合ってないような……あれ??



アリシアの困惑に気づいてないのか、
ゼバイルは黒いオーラを放ちながら一歩踏み出す。


ヤバイ、絶対このままだと巻き込まれる。
絶対このままだと死ぬ。

それは確信だった。





「はーなーせー!!」



「駄目ですよ。ここからが面白いのに……」



「私はまだ死にたくない!!」





アリシアは正直な感想を述べると、その場から逃げ出そうと躍起になる。



冗談じゃない!



あんな恐ろしいお兄さまを目の前にして生きている自身は無かった。
無論一緒にいるのが天才魔術師であっても、
今はこっちの方が怖い―――――!!!




「いやぁぁぁーーーー助けてぇぇぇ!!」



「死ね!この極悪魔術師め!!」



「大丈夫です。安心して下さい」





腰に掛けてあった剣を振り上げると、
そのまま躊躇することなく振り落とされた。



思わずアリシアは目を閉じる。



だが、何時まで待ってもその衝撃は襲っては来なかった。
恐る恐る目を開くと、其処にはうっすらと結界が張ってある。

どうやらレインが張ったようだ。


その顔はいつもの笑みが浮かんでいる。
相変わらず余裕だ。




とりあえず助かった………





何とか斬り殺されることだけは回避できたアリシアは人知れずため息を付いた。










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