それぞれの一夜   4








一瞬アリシアには目の前で起きていることが理解できなかった。

この男は何をした?
驚きのあまり目を閉じることなく、
パッチリと開いているアリシアにレインが苦笑気味に言う。




「こういう時ぐらい瞳を閉じて下さい」



「―――へ?」



「全く……雰囲気が分からない人ですね」




レインは更に苦笑しながら唇をアリシアにくっつけた。
甘い、甘い…口づけ……


自然とアリシアも為すままにさせられていた。
優しく重なる唇はマシュマロのように柔らかい。


とても甘い口づけにレインも酔いしれていた。
だが、そのキスは次第に深い物へと変わっていく。



「―――――――っん……」




苦しくなったアリシアはくぐもった声を出す。
思わず空気を取り込もうと口を開くが逆効果だった。


レインの舌がアリシアの口内を荒らす。
逃げようとするアリシアの舌をレインは上手く絡めていく。


―――可笑しくなりそうだった……


初めて味わうキスにアリシアは体の力が抜けていくのが分かる。
もはやレインに寄り掛かるような体勢になったアリシアにレインは満足そうに微笑んで唇を離した。


今だ現状が出来ないアリシアは涙目になりつつも空気をいっぱい吸い込んでいた。


だが、次第に分かってきたのか顔が見る見るうちに赤くなる。
まるでリンゴのように真っ赤だ。



そんな姿のアリシアにレインは愛おしそうに髪を撫でると、耳元で囁く。


それはとても甘い、囁きだった。




「今日はこれぐらいで勘弁して上げます。意外と可愛い一面も見られたことですし…」



「なぁ……///」




その言葉に更に赤くなるアリシア。
だが、いつもみたいに鉄拳が飛ばないのはその元気がないからだろう。


先程のキスで力が抜けてしまったアリシアは
不本意ながらレインに支えてもらわないとあっという間に倒れてしまう。


そのため、今だレインの腕に抱かれているというありえない状態だった。




こんなに近くにいるのに捕まえることも出来ないなんて…!!




そんなアリシアの心の声が聞こえたのか、レインは楽しそうに呟く。





「だから言ったでしょ?今の貴女では捕まえられないと」


「う、煩い!黙りなさい!!」



思わず怒鳴り返すとレインの瞳が楽しそうに細められた。


――――嫌な予感がする……



思わず下がろうとするが、腰を固定されているため、まずそれは無理だ。
それどころか、更にぐいっと引き寄せられる。


アリシアの頬に冷や汗が流れた。




「それ以上変なこと言うとそのお口をまた塞ぎますよ」


「スミマセンでした」



それだけは勘弁だ。と、言わんばかりにアリシアが即答する。
すると一瞬レインは不機嫌そうな顔をしたが再び元に戻った。


あのいつもの胡散臭い笑みに戻る。



「さて、約束ですし……仕方がありませんね。ゼバイルさんだけ元に戻しますか」


「本当!!」


「ええ、私は嘘は言いませんから」




にっこり微笑むと、指を鳴らす。
その途端、隣の部屋からゼバイルの悲鳴が上がった。



いや、あれは何というか――――――



歓喜に叫びにも似た声だと思った。

だが次の瞬間、現状は更に悪化する道を辿る。

男の姿に戻ったゼバイルがアリシアの部屋に入ってきたのだ。
無論、今の状況はと言うと―――――



レインに抱きしめられているあげく、
キスをされたせいで少し涙目になっており、頬が赤らんでいる状態。




これで何もなかったと言って

はい、そーですか。と、納得する者は居ないだろう。



案の定、部屋のドアを開け、固まっているゼバイルの姿が目撃される。
レインはと言うと、にこやかな笑みを浮かべているだけで何も言わない。


寧ろこの現状を楽しんでいるようだ。



また、厄介な事になったな…などと人ごとの様にアリシアはため息を付く。



―――――どうやら夜は始まったばかりのようだ。









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