零れた落ちたもの。それは…   3








部屋を出た後、アリシアはにっこり微笑みながら言った。



「お兄さま、早くリーナ姫を追いかけなくて良いの?今頃一人で泣いているかも知れ無いよ」




意地悪そうに笑うアリシアにゼバイルは一瞬顔を顰めるが、
「分かってる」と、呟くとその場を素早く後にする。


そんなゼバイルの様子を見ながらアリシアは一人苦笑した。




「全く…お兄さまも素直じゃ無いんだから……」



くすり、とアリシアは笑う。
だが、その言葉は誰にも聞こえることなく消えた。













「一体何処に居るんだ?」




眉を寄せ、呟くゼバイル。
無論探しているのはリーナ姫だ。

アリシアに責め立てられて…いや、元々探しに行く予定だったのだが、
泣いているかも知れないと言う言葉にゼバイルは内心焦っていた。


女の人に泣かれるのは困る。
どう対処して良いのか自分でも時々分からなくなるのだ。



ましてやリーナ姫に泣かれるとなると―――――




「前にもこんな事があったような……」




ふと、そんなことを思い出す。

ゼバイルは前髪をぐしゃりとかき回すと、瞳を閉じた。

思い出せ……



こんな様なときリーナ姫は何処にいた――――?




「―――――――あ………」




何かを思いだしたかのようにゼバイルは呟く。
そして再び城の中を走り出した。

向かう場所はたった一つ。




一番遠くにある東の塔の最上階だ。





『此処はわたくしのお気に入りの場所ですの』




にっこり可愛らしい笑みを見せ、微笑んだリーナ姫を今でも思い出せる。
そう、その時から自分は彼女のことが好きだったのだ。



やはり東の塔は人があまり出入りしないせいか、
人が全く歩いていない。

だが、ゼバイルは迷うことなく最上階へと続く階段を上った。
なるべく音を立てぬよう階段を上るとそこには探し続けていたリーナ姫の姿があった。


中は暗くなっており、天井には一面の夜空が飾られていた。



リーナ姫は夜の空を見るのが好きなため、
幼き頃、国王がリーナ姫のために東の塔にプラネタリウムを作ったのだ。


無論あまり人が来ないため、リーナは良く此処に遊びに来る。
どうやら今でも時々来ているようだ。


ゼバイルはリーナ姫に近づくと囁くように言った。





「リーナ姫………こんな所に居たのですか…探しましたよ」




それは嘘、偽りのない言葉だった。
リーナはゼバイルの言葉を聞くと、ピクリと肩を揺らす。


そしてゆっくり振り返る顔は案の定少し目元が赤くなっていた。
それだけでドキリとするゼバイルにリーナは必死で笑顔を繕う。


その姿が何とも痛々しかった。





「すみません。こんな所まで探しに来てくれるなんて……
やはりゼバイル様はお優しいですね……」



「リーナ姫……」



「大丈夫です……大丈夫だから…少しの間一人に――‐」




していただけませんか?と、言う言葉は続くことはなかった。

体が強張るのが分かる。
細い体はスッポリゼバイルの中に収まった。


そんなリーナ姫が更に愛しく思い強く抱きしめる。
リーナは堪えていた涙が流れるのが分かった。

ポロポロこぼれ落ちる。


漸く開いた口からは悲鳴にも似た本音が出た。





「―――――ダリア様からお手紙が来たときから分かってはいたんです。
この様な事になるのではないかと……でもわたくし、わたくしは……」



「それ以上言わないで下さい。悪いのは俺なんですから。
こんなに泣かせてしまってすみません」



「そんな……っちが………」




ゼバイル様は悪くないと言い切るリーナ姫にゼバイルは更に強く抱きしめる。
どうして自分はこんなに大切な人を泣かせいるのだろうと思いながら。




「リーナ姫……約束してくれますか?俺が元の姿に戻るまで待っていてくれると……」



「わたくしなら何年経っても待っていますわ」



頬を赤くしながら答えるリーナ姫を愛しく感じながら、ゼバイルは優しく微笑んだ。






天井に夜空が広がる中、暫く二人はそのまま抱き合っていた。








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