零れた落ちたもの。それは… 1 時は無情にも刻々と止まることなく進む。 城に着いたら言わなければならない…結婚の先送りを――― こんなに嬉しそうに話してくるリーナ姫に言えるのだろうか? 本当のことを……… ゼバイルは窓の外を眺めながら小さくため息を付く。 そんな様子をアリシアは心配そうに見つめていた。 「リーナ、只今戻りましたわ」 城の中に入ると、待ちかまえていた兵士達に笑顔で報告する。 何も知らない天使の微笑みだ。 兵士達は敬礼をしながらゼバイルとアリシアに視線を移し、リーナ姫に尋ねる。 「姫様、あちらの客人は――――」 「ええ、彼女たちはクロレストラ王国の使者です。 お父様に緊急のお話があると言うことで迎えに行っていました。 ―――――――それが何か?」 可愛らしく首を傾げるリーナ姫に兵士は頭を下げると道をあける。 「それは失礼しました。これも仕事なのでお許し下さい」 「分かっていますわ。お仕事頑張って下さいね」 リーナは微笑むとそのまま再び歩き出す。 その後を二人は追った。 やはり立派な一国家のことだけはあり、城の中も豪勢だ。 綺麗に装飾された壁は汚れ一つなく、真上には綺麗なシャンデリアが飾られている。 廊下には立派な絨毯が引かれ、よりいっそう綺麗に見立てる。 だが、城の中は広く道を知らない者が入ったら迷子になってしまうだろう。 アリシアは辺りを見渡しながらそんなことを思った。 ふと、リーナ姫は一つの扉の前で止まる。 今まで見てきた中では一番豪勢だろう。 リーナ姫は扉をノックすると言った。 「お父様、ゼバイル様とアリシア姫をお連れいたしましたわ」 「うむ。入れ」 扉の向こうから低い声が聞こえてくる。 リーナは扉を開けると二人に入るように言う。 アリシアはゆっくりとした歩きで前に進む。 その歩き方は王家の威厳そのものだ。 王の前まで来ると挨拶をする。 「王様、この様な姿で挨拶を申し上げるのをお許し下さい。 私はクロレストラ王国第二王女のアリシア・クロレストラで御座います」 「同じく、クロレストラ王国第一王子、ゼバイル・クロレストラです。 今回はこの様な姿になってしまった経緯と、これからのことについてお話があって参りました」 ゼバイルは下げていた頭を上げると真っ直ぐな瞳で国王を見据える。 その瞳だけは何も変わっていない。 国王はその瞳を見つけると「頭を上げるがいい」と言った。 鋭い瞳が二人に向けられるのが分かった。 「ふむ…どうやらダリアが言っていたことは本当のようだな。 あの魔術師、レインに魔法をかけられたというのは…… そして解く方法が見つからないのだろ?まだ」 「はい……」 ゼバイルが苦しそうに言う。 その様子にアリシアが立ち上がった。 突然の事にゼバイルが驚いたように見つめる。 アリシアはゆっくり呼吸をすると言った。 「今回の事件に関しては、お母様…ダリア様からどれくらい 教えられているのかは分かりませんが、今回の事件は全て私、アリシアが招いた原因です。 ゼバイルお兄さまをお責めになるのは止して下さい。 レインは私の婚約者です。今回はいろんな事があり、 他の人にもたがいな迷惑を掛けてしまったのは自分が一番理解しているつもりです。 お責めになるのでしたら私をお責め下さい。ゼバイルお兄さまは何も悪くありません」 「アリシア!」 国王に何て事を…… などと、ゼバイルが咎める中、アリシアは真剣に国王を見つめる。 その瞳は真剣そのものだった。 自分のせいでお兄さまが責められるのは耐えられない…… だったら自分が――――― そう、アリシアは考えたのだ。 国王もアリシアの瞳を見つめながら面白そうに笑う。 その表情に今までの鋭い瞳はなくなっていた。 「流石アリシア姫。兄をかばい、自分が責められる対象になるとは… 面白いことをなさる。儂はそんなことでは人をせめんよ」 「そうですわ、お父様はそこまで心は狭くありませんわ」 それを肯定するようにリーナ姫がにっこり笑った。 |