最強の姫君、リーナ姫   1








柔らかい日差しが部屋の中に入ってくる。
温かい日差しだ。



部屋の主は椅子に腰掛けながら優雅にお茶をしていた。
入れたばかりのハーブティーが部屋の中で仄かに薫る。



そんなゆっくりとした一時だった。




彼女の名はリーナ・フィストン。
アリーナ王国の姫君である。



太陽の様に輝かんばかりにつやつやとした金色のウェーブ髪に、深緑の様に透き通った瞳。




朗らかな性格のおかげか、笑顔を振りまく姿は天使のようだとも言われている。
そう、天使…………の、様だと。



彼女の本当の姿を知らない者はそう言う。




――――そう、彼女の本当の姿を知らない者は。





「そろそろ来ても良い頃なんですけどねぇ…わたくしのゼバイルが……」






ふぅ、と、ため息をついている姿は差詰め、恋煩いをしている様にも見える。



が、……言っていることは物騒だ。





「ダリアお母様のお手紙では今日来ても良いはずなのに……ああ、わたくし楽しみですわ!!女性になったゼバイルにお会いできるなんて…誰だか知らないけどわたくしの三番目の望みを叶えてくれて有り難う!!」




意味不明なことを呟きつつも、リーナは楽しそうに微笑む。
どうやら本当にゼバイルに会うのが楽しみなようだ。


それにしてもゼバイルが女性の姿をしてるのが見たかったて………


しかも三番目のお願い事…………



きっとこの場にゼバイルが居たら失神していただろう。






「それにアリシアちゃんも来ているなんて嬉しい限りですわ!今日は思う存分遊ばなくちゃ!」






何で遊ぶの?とは、あえて聞かないどこう…


聞いたら最後――――何を語り出すか分からない。




とにかく、彼女はゼバイルが来るのを楽しみにしていた。
仮にももうすぐ結婚する相手なのだ。

楽しみ以外の何者でもない。



頬を赤らめふふふ、と笑っている姿は差詰め婚約者が来るのが嬉しくて頬を赤らめながら笑っているようにしか周りには見えないだろう。


だが――――






「どんなお洋服を着せようかしら?ゼバイルならきっと大人っぽい服の方が似合うに決まってるわ!!」






全然違うことを考えていた。




「でも、大切なお話って何なのかしら?」




リーナはふと、動きを止めると、考え込むかのように言った。
ダリアの手紙には確かにそう書いてあった。


ゼバイルがこちらに着いたら自ら話すとは書いてあるが、気になるところだ。







「いっそのこと城の外までお迎えに行こうかしら?」






リーナは呟くとにんまり笑う。
我ながら良い考えだ。


そうと決まれば早い。



リーナは部屋を飛び出すと、城の外に向かって走り出した。
これならゼバイルと一緒にいられる時間も増えるというものだ。





「待っていて下さいね。ゼバイル」






リーナはにっこり微笑みながら長い廊下を走り抜けた。









***








「―――――くしゅん……」




ゼバイルは体を撫でると辺りを見回した。
今、悪寒が走ったような……



嫌な予感を感じ、ゼバイルは足を止めた。
アリシアが不思議そうに振り返る。




「どうしたの?おに……じゃなくてお姉さま」




思わず頬を引きつらせながら言うアリシア。
今日こんなことをしたのは何度目だろうか?




そんなアリシアにゼバイルは苦笑しつつも何でもないと再び歩き出す。





――――――アーリア城はすぐ目の前だ。














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