不思議な老婆   4








静かな店の中に二人の男女がいる。

一人は端正な顔立ちをした美形の部類にも入る青年。
もう一人はもう、60歳を過ぎたとも思える老婆。


だが、二人の表情はまさに真逆とも言っていいだろう。



青年は楽しそうに笑みを浮かべ、
一方の老婆は嫌そうに顔を顰めている。





二人の間に暫くの間沈黙が漂った。
身動きもしない、ただただ、じっと見つめ合っているだけだ。



ふと、レインの方が先にその沈黙を破った。
冷たい瞳をする老婆にゆっくりと言葉を発する。





「まさか、貴女がこんな所にいるとは思いませんでした。
何年間も家を留守にしていたと思ったらこんな所にいたなんて…
流石に驚きましたよ。師匠…」




「………別に、ただあのお前が一人の姫に恋をしたと聞いたから見に来たまでの話しさ。
まさかあんなことまでするとは思いもしなかったけどね」





そう、呟く老婆にレインはゆっくりと歩き出した。






「――――そうですね、確かにこの私が女性を好きになるとは思いもしませんでした。
けど、一度欲しいと思った者は絶対手に入れる主義でして……
時間はたっぷりありますし、ゆっくりやらせて貰いますよ」




「まぁ、それはそれは……アリシアお嬢ちゃんも大変な奴に目を付けられちゃったようだね」






くつり、と笑う老婆にレインはすっと、瞳を細めた。
明らかに怒っているのが分かる。
老婆は楽しそうに首を傾げた。




「どうした?本当のことじゃないの?それとも……
この喋り方が気に入らなかったかね?」






明らかにレインの反応を楽しんでいる老婆にレインはにっこり笑みを浮かべると言った。






「人の反応を見て、楽しむのはやめて下さい。
それに……その姿は明らかに詐欺じゃないですか。
分かりませんよ、誰も貴女がかの有名なローレシア・フィステーラだなんて…」





「確かに………そうかも知れないね。
だが、この姿をしていればいつまでも静かな生活が出来て私は幸せだよ。
煩いのは嫌いでね」





「流石………自己中な師匠だけのことはある」






納得するように呟くレインに老婆は瞳を鋭くすると言った。






「その一言は余計だよ!レイン。全く………さっさと、追いかけないと
今頃あの二人は町の外にいるんじゃないんかい?
それにあんな軟弱そうな兄ちゃんじゃあのアリシアちゃんを守りきれるとは思えないけどね。
外にはウジャウジャモンスターがいるというのに……」






心配するかのような言葉を投げかける老婆にレインは再び微笑むと、意味ありげに笑った。
そんな笑みを浮かべる時はろくなことがないと老婆は知っていた。



だが、レインの言葉は案外普通だった。






「大丈夫ですよ。あの人は案外強いですから。特にアリシアのことになるとね。
仮にもこの国では彼が一番剣術では優れていますしね?」




そう呟くと、レインは再び風のように消える。
きっとあの二人を追いかけに行ったのだろう。



全く…………本当に……






「どうしようもない莫迦だよお前は」






老婆は一人楽しげに呟くと、店の奥に消えていった。





―――――アリシアとゼバイルの旅は此処から始まる。





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