不思議な老婆   1








久しぶりの外出にアリシアは少なからず心が弾んでいた。
外に出かけるといっても、今までは少なからず十人以上の護衛が付いてきた。
それに対し、アリシアは少なからず不満を持っていた。


何時も、何時も、何時も、何時も…
後ろからぞろぞろ着いて来て…うざいなんてもんじゃない!

私は一人で外に出たいっていうのに…

プライバシーもあったもんじゃないわ。
でも今日はうざい連中もいないことだし、ゼバイルお兄様だけだからなんか気楽。


だが、この姿の自分を誰が王女だと分かろうか?
きっと誰もわからないだろう。
嬉しいやら悲しいやら…複雑な気分にはなるもののアリシアは今の状況を楽しむことにした。
とにかく今は一刻も早くあの性悪魔術師を捕まえねば…





「でも今はお洋服よね」






アリシアは一人頷くと、馴染みのある店に向かった。
薄暗く、かなり古めの洋服屋。
此処がアリシアのお気に入りの服屋だ。


洋服を作ってもらう時は何時もこの服やで頼んでいる。
派手すぎず、大人すぎず、ちょうどいい感じに仕上がってくるのだ。
まるでアリシアの好みをすべて知っているかのように…

初めて来る場所にゼバイルは眉をひそめ呟いた。





「本当にこの店で在ってるのか?なんかかなり古い店だな…」



「失礼ね!私はこの店の洋服が好きなの。お兄様も知っているでしょ?
外見なんか関係ないわ。大切なのは作っている人の気持ちとデザインよ」



「なんか凄いいいこと言ってるようで実はデザインが好みなだけだろ」



「う…そんなことは……」



「あるんだろ?」



「お兄様の意地悪!!馬鹿!」




怒ったように呟くと、そのまま中に入っていく。



「やれやれ…まだ子供だな」


ゼバイルは呆れたようにため息をつくと、
アリシアの後を追って店の中に入った。


中は意外と質素なつくりになっており、店の外見より古くは見えなかった。
興味深そうにあたりを見渡していると、奥のほうから一人の老婆が出てくる。
優しそうな瞳をした老婆だ。


ゼバイルは老婆を捕らえると店の中の服に目が言っているアリシアを小突いた。





「おい、誰か来たぞ」


「…え?――ああ、お婆さんか。こんにちわ、私誰だかわかる?」





小さくなったアリシアは老婆の前に立つとにっこり笑った。
薄ピンクの瞳が楽しげに老婆を見つめている。
老婆もしげしげ眺めた後、優しい笑みを浮かべ言った。




「もちろん分かりますよ、アリシアお譲ちゃん。
そちらの方は――――ゼバイル様かね?
ずいぶんとまぁ…お変わりになられて…」



「―――俺のこともわかるのか?」





不思議そうに見つめるゼバイルに老婆は相手が安心するような
優しい笑みを浮かべると勿論と頷いた。





「そりゃ、もうすぐ隣国の姫君と結婚なさるゼバイル様のことを
知らぬ者はいませんよ。それより如何なさったのですかそのお姿は…」




真っ直ぐな瞳に見つめられ、ゼバイルは口ごもる。
何と言っていいのか分からないのだ。
そんな兄に代わってアリシアがレインの事を教えた。


老婆も親身になってアリシアの話を聞いてくれた。
そしてすべての話を聞き終わった後、老婆は呆れたようにため息をつく。

優しげな表情は少なからず強張っていた。





「まさかレイン様がそんなことをするなんて…信じられないね。
そこまでアリシアお譲ちゃんのことが好きなのは分かったけど、
今回のことは流石にやりすぎだと私は思うよ」



ポツリと、呟くと、老婆はアリシアの頭の上に手を置き言った。




「ま、大丈夫さ。すぐにレイン様は見つかるよ。それにアリシアお譲ちゃんが
本当に会いたいと思えば少なからずレイン様のほうから来るに違いないしね」



「へ?それってどういう意味?」




わけが分からず、首を傾げるアリシアに老婆は
意味ありげな笑みを浮かべただけで深くは言わなかった。




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