旅立ちの時   2








「…………………………何やってるの?」





シリアはジッと前を凝視した後、漸く呟いた言葉がそれだった。
朝食を取りに来たのだが、何時もと違う光景に足が止まったのだ。

目の前には朝から爽やかな笑みを浮かべたダリアと、
腕の中に抱えられたアリシアが見受けられる。


だが、そこまではいい。



問題はアリシアの機嫌の悪さと、着ている服だ。
まぁ、機嫌が悪いのはきっと今、来ている服のせいだろう。


ダリアの腕の中でアリシアは仏頂面しているが、本当にビスクドールに見える。
黒く、艶やかな黒髪はクルクルに纏めてあり、
頭の上にはゴスロリに合うような可愛らしい帽子がちょこんとアクセントで乗っていた。
だが、その姿はとっても似合っており――




「これで仏頂面してなきゃ完璧ビスクドールなのに…」





思わずそう呟くシリア。
だが、これは本心だ。
勿論仏頂面してなければの話だが……




―――これはゼバイルが起きてきたときの反応が楽しみだわ…
うっすら笑みを浮かべると、シリアはそのまま何事も無かったかのように席に着いた。













「―――で、私は何時までこの格好で居なくちゃいけないのかしら?」





何処か疲れたような、遠い目をしながらアリシアは呟いた。
勿論、ダリアを睨むのは忘れない。


だが、当の本人はニッコリ笑みを浮かべるだけで、ちゃんとした返答は返してくれない。
しかも二人の会話は話がかみ合っていない。





「あらーアリシアちゃん!ずっとその姿のままでも良いのよ?可愛いし」


「………お母様、私は(あの性悪魔術師)レインを追いかけなきゃいけないんですけど…」


「そうねぇ…今度は違う服も着てもらおうかしら?きっとアリシアちゃんなら似合うわ!!」


「―――って、人の話聞いてねーし…」


「それにしても早くアリシアちゃんのウェディングドレス姿が見たいわ〜」



「もう駄目…全然話を聞いてくれないよ〜
しかもウェディングドレスとかいって…かなり先の話しだし」





がっくりと肩を落とすと、優雅な笑みを浮かべるシリアと目があった。
「頑張れ〜」と、小さな声で言ってはいるが、助けてはくれないのだろう。


ちっ…何奴も此奴も役にたたねぇ…
機嫌が悪くなるに連れて口調まで変わってきてしまうのも仕方がないことだ。
それにしても――――





「この城でまだまともなゼバイルお兄さまはまだ起きてこないのかしら…?」




もはや虚ろな表情で呟くアリシア。
その瞳からは生気が無くなりかけていた。

そしてその言葉を発してから約30分後にゼバイルは漸く朝食を取りに部屋に入ってきた。





+++



ゼバイルは長い髪が邪魔だったのか、綺麗にポニーテールしている。
歩くたびに黒い綺麗な髪が靡いて更に女っぽく見えた。
まぁ、今の彼は女なのだが…




ゼバイルは部屋にはいると思わず「う゛…」と、声を上げた。
勿論その目線の先には物凄く機嫌の悪いアリシアが居たからなのだが…


まぁ、原因はすぐに分かった。


が、どうして俺が起きてくるまでこの超絶不機嫌なアリシアをみんなほっといたのかが不思議だった。
しかしシリアの笑顔がすぐ頭に浮かぶ。


――――また面白がってるな…シリアの奴……


だが、シリアはもう既に姿はなく、満面の笑みを浮かべるダリアと、アリシアしか其処には居なかった。









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