旅立ちの時   1








風がふわりと頬をなでた。優しい風だ。
アリシアは閉じていた瞳を開くと体を起こした。
やけに体が軽いのは気のせいだろうか?




「んーよく寝た」






手を伸ばしながらアリシアは呟く。
それにしても昨日は不思議な夢を見た。

性悪魔術師レインに子供の姿に変えられてしまう夢を見たのだ。

もちろんそんなことありえないわけで…
大き目のベッドからするりと降りるとクローゼットに向かう。



――――はて?こんなに遠かったっけ?


首を傾げるアリシア。ふと、鏡に自分の姿が映った。

そこに写ったのは昨日の小さい姿の自分で―――――





「嘘…夢じゃなかったの……?」






呆然と呟くアリシア。小さくなってしまった自分の姿を穴が開くほど見つめてしまった。
その時、静かに一人の女性が入り込んでくる。ダリアだ。


ダリアはゆっくり辺りを見渡すと、鏡の前で固まっているアリシアを見つけにっこり笑った。
その手にはなんとも言いようのないものが握られている。

アリシアは手に握られているものを見つけると脱兎のごとく逃げようとするが、
いとも簡単にダリアの腕の中に収められた。

冷や汗が頬を伝う。


だが、捕まえられたアリシアの目に映っていたものはダリアではなく、その手に握られているものだった。




「お、お、お母様?おはようございます。こんな朝早くから私に何か用ですか」




明らかに声が裏返っているのがわかる。
だが、アリシアは勇気を持って聞いてみた。

その間も視線は手の中の物に視線が向いている。
ダリアは綺麗な笑みを浮かべると言った。





「今日はね、アリシアちゃんにこれを着てもらいたくって張り切って早起きしたの!
ね?ささ、早く来て見なさい。アリシアちゃん。きっと似合うわ!!」



ずいっと、前に差し出されたのはまさに…真っ黒なレースがたくさん付いているゴスロリともいえる服だ。
ゴクリ。と、アリシアは生唾を飲んだ。
冗談じゃない。何で18歳にもなってこんな服を着なければならないのだ。


確かに今は小さくなっちゃっているが、
中身はちゃんと18歳のままだ。
死んでもこんな服は着る気はない。
寧ろ着るくらいなら死んだほうがマシだ。




「これ、何処で手に入れたのですか?お母様…」




どう見ても新品としか思えない服…昨日の今日だ。まさか夜のうちに買ってきたとは思えない。
まさか前から持っていたとか?



――――なんかそっちの方がありえそうかも…



黒い服をジッと見つめるアリシアにダリアはとても嬉しそうに呟いた。





「ああ、これ?これはね、私が昨日のうちに作っといたの。
アリシアちゃんに来てもらいたくて…お母さんのお手製よvv」






マジかよ…!!

何処かのオーダーメイドの服にしか見えないんですけど!!
心の中で突っ込みながら服を見つめた。



大体、何で裁縫できるんだよ…そっちの方が気になったのは言うまでもない。
アリシアは遠慮がちにダリアを見た。




「お母様?…他には着れる服はありませんの?もっと普通の…動きやすそうな――――」



「そうねぇ…他に十着ぐらい作ったんだけど…
それでもこれはレースを抑え目に付けたつもりなのよ?」





これで抑え目!?しかもこれよりすごい服を十着も…
目眩がしてきた…どれだけのスピードで服を仕上げていったのだろうか?
――考えられない。寧ろ考えたくない。





「さて…と、アリシアちゃん」


「―――え?」



「観念してこの服を着てねvv」


「……………」





朝っぱらからアリシアの叫び声が響きわったったのは言うまでもない。







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