性悪魔術師が嘲笑った瞬間   6








広い部屋の中、三人の男女が椅子に腰をかけ座っていた。
三人の間には何処か気まずい雰囲気が漂っている。
一人の女性がおもむろに口を開いた。




「――――つまり…アリシアちゃんを小さくし、貴方達の性別を
逆転させたのは天才魔術師レインなのですね?」



「ええ、ダリアお母様。天才魔術師…と、言うのが気にくわないですけど」




不満そうにシリアが呟いた。
そう、レインはこの世界でも一番と言われるほどの実力を持っている。
彼に魔術で戦ったら勝てる者など無きに等しいだろう。
ダリアはその話を二人から聞くと、ふぅ。と、溜息を付いた。




「案外遅かったわねぇ…」




「はい??」




意味不明な発言にゼバイルは間抜けな声を出す。
だが、先程の彼女の発言ではどう考えてもレインのとる行動を知っていたようにしか聞こえない。



知っていたのだろうか?母上は………





理解しがたい考えをする自分の母上に対し、
ゼバイルは無駄だと分かりつつも、何を考えているか見透かそうとする。


が、結局は無駄に終わった。
眉を顰めるゼバイルを見たダリアはキョトンとした表情で言う。




「あら?分からない?だって…彼が限界に近づいているのは目に見えていたもの」



「限界?誰が…??」




更にこんがらがった表情をするゼバイルにダリアは笑みを浮かべながら言った。





「簡単に説明すると、はっきり言ってアリシアちゃんはレイン君のこと嫌ってるでしょ」



「あー…うん。まぁ……そう言うことになるんじゃないですか…?」






勝手に言っていいのか分からない。と、いった表情で呟くゼバイル。
だが、ダリアは気にした様子もなく更に言った。






「だからいい加減、彼も蔑ろにされるのはきつかったのよ。
第一、天才魔術師の彼を嫌いだなんて言う女性は少ないもの。
アリシアちゃんは珍しい方よ。あんなに格好いいレイン君に
アプローチされてるのに嫌がるなんて…罪な子ね!
だからそろそろ何かしでかすんじゃないかと思っていたんだけど――
こんな事になっちゃう何て考えもしなかったわ」






何処か困ったように…
だが、とても楽しそうに語るダリアにゼバイルは冷や汗をかく。
シリアに至っては呆れた目線で自分の母親を見ていたのは言うまでもない。
そんな二人だったが、急に真剣な表情に変わった母親に驚いたように見つめる。






「さて…ここからが一番大事なんだけど―――ゼバイル。
貴方はアリシアを連れて一緒にレインを探しに行きなさい。
それからシリア。貴女は私と一緒にこの城に残ること。
元に戻るまで一歩も外に出てはいけませんからね」





威厳のある声でキッパリ言い放つダリアに誰も言い返さない。
そんな二人の様子にダリアは静かに瞳を閉じる。





「ゼバイル…レイン君を探しに行くのは貴方のためでもあるのよ?
城を出たらまずは隣国の姫君、リーナ姫に事情を話してきなさい。
あの方ならすぐに理解をしてくれるはずよ?」





「ええ、まぁそれはそうですけど…」





「なら良いじゃないの。他に何かあるの?
…ああ、もしかして女性の姿で会いに行くのが恥ずかしいとか?」







茶目っ気たっぷりに聞いてくるダリアにゼバイルは頬が赤くなるのが分かった。
またそんな姿が可愛らしい。
クスクス笑うダリアにゼバイルは必死に訂正する。





「ちがーう!!そんなんじゃなくて―――」




「どう違うのかしら?詳しく教えてくれるかしら。ゼバイル」







頬杖を付きながらニッコリ聞き返すダリア。
やっぱりこの人には一生勝てない。
と、思った瞬間でもあった。






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