性悪魔術師が嘲笑った瞬間   5









「私、ゼバイルだけには言われたくないわ。
貴方だって今は女性なんですから少しはおしとやかにしたらどうですか」




「俺は男だ!!」




「あら、でも今は女性よ」





「それを言うならシリアだってそうだろうが!」








目の前で戦争のごとく口論を始める二人を
アリシアはただ見ていることしか出来なかった。


否、入ったら最後。
確実に自分が今度は標的にされてしまう。

それだけは勘弁だ。




それをわかってか、誰も止める者は居ない。
こんな状態になったとき、止められるのはあの人しか居ない。


確かにあの人なら止められるだろう。
だが、放浪癖があるため今、何処にいるかは分からない。
きっと城の中に居るのは確実なのだが―――



何と言っても広すぎるため、見つけるのは困難だ。
困ったようにアリシアは顔を顰めていると、ふいに身体が宙に浮かんだのが分かった。






「へ?」





驚いたように辺りを見渡せば、
其処には穏やかな笑みを浮かべた女性が立っていた。

女性はアリシアを抱きかかえながらふわりと微笑む。




「あら、小さい時のアリシアにそっくりな子ねぇ…
もしかして本物のアリシアなのかしら?」




アリシアと同じ薄ピンクの瞳がアリシアを覗き込む。
金色の長い髪から甘い香りが漂ってくる。

アリシアは思わず涙ぐむとそのまま女性に抱きついた。
女性も子供をあやすかのように背中を優しく撫でる。
その表情はとても優しげだ。






「うぅ…お母様…お姉さまとお兄様が――」



「あら、小さくなったら随分と泣き虫になったようね。アリシアちゃんは…
分かっているわ。大事な妹をこんなに泣かせて何て悪い姉と兄なのでしょうね」






優しく微笑んでいるが、瞳は笑っていない。
女性はアリシアを抱きかかえたまま目の前で気づかずに
口論を続けている二人に静かに言った。





「シリア、ゼバイル、貴方達はこんな所で何をしているのかしら?」




今までの優しい雰囲気とは別物の冷たい声だった。
その声を聞いた途端、二人は口論をやめ、驚いたように其方を向く。
其処には綺麗な笑みを湛えた女性が立っていた。


シリアは驚いたように口を開く。






「ダリアお母様…何故此処に―――」



「あら、私が此処にいてはいけない理由でもあるのかしらシリア?」




「いえ、そう言うわけではありませんけど…」







シリアの表情は明らかに固いものがあった。
寧ろ青ざめていると言った方が良いのだろうか?


ゼバイルもそれと同じで驚いたようにダリアを見ていた。
だが、その表情からも何処かしら恐怖が滲み出ている。



ダリアはそんな二人を見ても動じず、ゆっくりと言葉を発した。







「まったく。貴方達は何度言えば分かるのですか。
ほら、見なさい。小さいアリシアちゃんが余りの怖さに泣いちゃってるじゃないの…
二人とも、よーくお話を聞かせて上げるから私の部屋にいらっしゃい」





「「わかりました…」」






そう、答えた二人は青ざめている。
今にも泣きそうなくらいだ。
だが、ダリアは気にしてないのかアリシアにニッコリ微笑むとそのまま歩き出す。







「詳しい話はあの二人から聞くとして、アリシアちゃん。
一緒にお茶をしましょうね〜」




完全に子供扱いされているアリシア。
確かに外見は子供なのだが―――




「お母様―――?」




困ったような表情で自分の母親を見上げれば、
嬉しそうな顔でギュッとされた。





「あら、アリシアちゃんすっごくかわいい〜
何か子供の頃のアリシアちゃん見ているみたいで私嬉しいわ〜〜」





先程の威厳は何処に行ったのやら…
嬉しそうにアリシアを抱きかかえるとそのまま何処かへ言ってしまった。
どうやらまだ性悪魔術師レインを探しにいけるのはまだまだ先のようだ。





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