性悪魔術師が嘲笑った瞬間   4









「あら!!ゼバイル。随分と綺麗な姿になっちゃって。
あら、まぁ…アリシアちゃんはちっちゃくなっちゃって可愛い〜」




城の中に心地よいテノールの声が響き渡る。
声の主は綺麗な金色の髪を靡かせ、此方に近づいてきた。
アリシアと同じ淡いピンクの瞳が此方をしっかり捕らえている。

元々長かった髪はいつの間にか短くなっており、さっぱりしていた。
何処から見てもシリアお姉さまは男にしか見えなくて――


内心格好いいと思ったのはいうまでもない。



それにしても…



「シリアお姉さまも性別が逆転してしまったんですね…」



「あら。私はこの身体もなかなか気に入っているのよ?
一度でいいから男になってみたかったのよねぇ〜」




楽しげに語るシリアに二人はありえねーと心の中で突っ込む。
この状況を楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか?
いや、絶対この人楽しんでるよ…


呆れた視線で見つめる二人に、シリアは心外そうな顔をしながら頬を膨らます。
また、その姿が可愛らしい。

そんなシリアにゼバイルは呆れた様子で言った。





「その様子だと―――お前もあの極悪魔術師に姿を変えられたのか?」


「そう言うことになるわね。ふふふ…とりあえず会ったら八つ裂きにするのは決定かしら?」





綺麗に笑ってはいるが、瞳はちっとも笑っていない。
ピンクの瞳が冷たい光を放った。
その様子にゼバイルは何度目か分からない溜息を付いた。




「本当―――お前って本当に黒いよな」



「ゼバイルほどでもないと思うけど?」





キョトンとした表情で言う彼女はとても綺麗だが、何処か怖かった。
現にアリシアが青ざめた表情でゼバイルの後ろに隠れてる。
またそんな姿が可愛らしい。

シリアはうっすらと笑みを浮かべると見下すような瞳でアリシアを見つめながら言った。





「じゃ、私はこの姿を十分楽しむ事にするわ。
男性になるなんて普通じゃ出来ない体験だモノ。
楽しむなら今よね」



イヤ…そんなこと私に同意を求められても…
私、男になってないし。寧ろ小さくされたし。

いつもより背が高いシリアを見つめながらふとそんなことを思う。
だが、一番被害を被っているのはゼバイルの方だった。


呑気に考えるシリアにゼバイルはうなだれたように呟く。




「…俺はどうするんだよ。もうすぐ結婚が控えていたというのに…
絶対ゆるさねぇ…あの極悪魔術師め」




聞いたこともない低い声に思わずアリシアの顔が引きつる。
もとはと言えば自分がレインとの結婚を拒んだからこんな事が起きたと言うことで――





「ごめんなさいお兄様…私のせいで…」





そうなのだ。
ゼバイルお兄様だってもうすぐ結婚式が控えていたというのに…
私のせいでこれじゃ台無しだ。
淡いピンクの瞳に涙をたくさん溜めてると、
ゼバイルは心底困った様な表情をして言った。



「あー…泣くなアリシア。別に俺はお前に怒ってるわけじゃ無いんだから」



「そうよ。大体そう思うのならアリシアと一緒にあの馬鹿を探してきなさい。
じゃないと半年後にはレインのお嫁さんになっちゃうわよ?
大切な大切な妹がね?」





何とも言えない笑みを浮かべるシリアにゼバイルの表情が険しくなる。






「何だと!?あんな奴にアリシアを渡すわけがないだろうが。
何時の間に結婚までこじつけたんだ…あの男は…」





何か周りの空気が更に黒くなったのは気のせいでしょうか?
なんで私の兄弟はこんなに黒い人ばかり居るのかしら…不思議だ。
ふと、アリシアは姉の言葉に疑問を浮かべる。






「あれ?お姉さまは一緒に来てはくれないのですか?」








アリシアの疑問にシリアはわざとらしく頬に手を当て呟いた。








「本当は一緒に探しに出でも良いんだけど…お父様が倒れちゃってね。
だから誰か一人は残って看病しなくちゃいけないでしょ?」




男の姿のせいか、何処か違和感を感じる。
お姉さまがその姿で喋ると―――うん。
やっぱり変だよ。心の中で思っても流石に口には出来ない。
してしまったら後が怖い。
だが、怖いモノ知らずが一人居た。







「お前、その姿でその仕草とかはやめろよ。変態に見えて気持ち悪い」






うわー言っちゃったよ、この人。
知らないよ?私は…
メッチャ黒い笑顔を浮かべるシリアの顔を確認しつつアリシアはそんなことを思った。
そして二人の言い合いが始まったのは言うまでもない。





いや…戦争かな?






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