性悪魔術師が嘲笑った瞬間   3









元々長く綺麗な黒髪は、煙のせいで埃を被っている。
それをうざそうにアリシアはかき分けると再び舌打ちをする。
本当に口の悪さだけは天下一品だ。


アリシアは部屋を見渡すが、特に変わったところはない。

では、あの男は一体何の魔法をかけていったのだ?
不思議そうに首をひねると、ふと、気づく。





「なんかいつもより視線が低いような―――」






そう呟きながら視線を自分の身体に向ける。
淡いピンクの瞳に映ったのは遙かに小さくなった自分の姿で――
アリシアは呆然としたように自分の身体を見つめていた。


女性にしては高かった170センチ近くもあった身長はいつの間にか
140センチあるかどうかぐらい縮んでいる。
これでは餓鬼も同然だ。


だんだん沸々と沸き上がってくる怒りにアリシアは顔を強張らせていると、
部屋の外から叫び声が聞こえてきた。

自分以外にも被害者が居たのだろうか?



―――だが、この声の主はどう考えても……





「ゼバイルお兄さま???」





――何かいつもより声が高かったような…
恐る恐る部屋の外に出ると其処には黒髪の美女が立っていた。


漆黒の闇のような髪の毛はセミロングほどの長さで肩にゆったりかかっている。
冷たい印象を与える鋭い瞳からは考えられないほどの怒りを感じ取れた。

だが、見知っている人物にとても似ているが…
今、目の前に居るのは女性だ。ゼバイルお兄様は男であって女じゃない。





「――――……えーと…誰…でしょうか?」




アリシアが困惑した様子で呟くと、女性は怒りに満ちたかのような低い声で呟いた。





「……あの極悪魔術師め…マジ殺してやりてぇ…いや、絶対殺す」




女性はアリシアの質問には答えず、一人ぶつぶつ呟いている。
極悪魔術師というのはレインのことだろう。
そしてそんなことを言うのはゼバイルお兄さましか居ない。

と、言うことは…この見知った外見をしている女性は間違いなく――





「ゼバイルお兄さま…あの性悪魔術師に魔法をかけられたのですね?」





アリシアは哀れみの視線を含みながら目の前の女性を見た。

一方のゼバイルは漸くアリシアの存在に気づいたのか、
アリシアの方を見ると固まってしまった。

口をあんぐり開け、此方を指さしている。
明らかに可笑しい兄の様子にアリシアは首を傾げた。

だが、次に言われた言葉でそれを納得する。




「――――…お前……アリ…シア…か?」



「ええ、こんな姿ですが正真正銘アリシアです」






いつものように笑みを浮かべながらアリシアは肯定した。

そう、今の自分は兄が驚くほど若返ってしまった。
―――八歳の時の姿になってしまったのだ。


だが、今はそんなことどうでも良かった。
問題はお兄さまの方だ。



性別が逆転してしまっている。



と、言うことはまさか―――――――




シリアお姉さまも……




そして素晴らしい事にもその予感は的中した。





この場に似つかわしくないほどの明るい声が飛び込んできた。







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