性悪魔術師が嘲笑った瞬間 2 現在、私の目の前には天敵とも言える男がいる。 勝手に決められた婚約者、レイン・アラストルだ。 私は、先程外した蹴りを決めるべく、長く、重いスカートを捲り上げた。 白く、長い生足が姿を現す。 と、同時にレインが呆れたような表情で此方を見てきた。 その顔がまたむかつく。 だが、その視線は何故か下の方を見ていて――― 「…………何処見てるのよ」 怒ったような口調で問えば、レインは首を軽く傾げながら言った。 「いや〜その細い足からよくもあんな強い蹴りが 繰り出せるな。と、思いまして」 「死ね」 アリシアは殺気を出しながらレインを睨み付ける。 この性悪魔術師め…変態まがいの発言までしやがって。 ガンッと、高いハイヒールの靴を強く叩きつけると、一歩レインに近づく。 「貴方―――今、何を言った理解できるのかしら?」 薄ピンクの瞳がスッと細められる。 血のように赤い唇が優雅に弧を描いた。 冷たい表情だ。 相当怒っているのが伺える。 だが、レインは対して気にした様子もなく、 只笑みを浮かべたまま何も言わない。 ―――一体何を考えているのやら… 表情の読めないレインに少なからずアリシアは苛立っていた。 別に他の人間なら此処まで苛立たないだろう。 この男だからむかつくのだ。 「大体なんで私が貴方なんかと結婚しなくてはならないのかしら? はっきり言って冗談じゃないわ。それに私じゃなくともシリアお姉さまがいるでしょう? 美人で有名なお姉さまが。何で私なのよ…」 大抵の男はシリアお姉さまの美貌の虜となり、 結婚などをしたがるのだが、この男は何故か私を選んだ。 だからこそ理解できない。 騙されているような気になってしまうのだ。 どうせシリアお姉さまが好きになってくれないから妹でもいいやと考える輩は沢山いる。 私はそれをずっと見てきたからこそ分からないのだ。 この男が言っていることが… そんな頑なに拒むアリシアに、レインは何時も通りの笑みを浮かべると言った。 「好きだからだよ」 甘い囁き――― だけど騙されてはいけない。 どうせ此奴だって私を騙すだけなのだから… 「私は好きじゃないわ」 これは本心。 何を考えているか分からない奴など好きになるはずもない。 真剣に答えるレインにアリシアは顔を背けながら呟く。 それにレインにいくら好きだ。愛してる。 と、言われても心は少しも揺れ動かない。 本当に好きではないからなのだ。 そんな様子のアリシアにレインはしばし考え込むような表情をすると、 一つの提案を出した。 「それでは―――私と賭をしませんか?」 「賭…?」 アリシアは怪訝そうに聞き返す。 レインは意味ありげな笑みを浮かべながら頷いた。 「そう、賭です。貴女が私を半年以内に捕まえることが出来れば貴女の勝ちです。 結婚の話しも全て無かったことにし、二度と会いに来ません」 その瞬間レインの表情が一瞬悲しそうに見えた。 「手段は問いません。ですが半年経っても捕まえることが出来なければ… 即結婚になりますから、そこの所、よろしくお願いしますね」 レインはそう言いながら手に持っていた杖を此方に向ける。 アリシアは嫌な予感を感じた。 「ちょっと!!私はまだやるなんて一言も―――」 「大丈夫です。嫌でもやりたくなりますから」 同時にボンッと音を立てて辺り一面が煙で包まれた。 ゲホッゲホッ… 一体何をしたのだろうあの性悪魔術師は… それに最後に言っていた『嫌でもやりたくなりますから』の意味が分からない。 アリシアは涙目になった瞳を必死に凝らしながら レインが何処に行ったのか探る。 ―――どうやらこの城の中にはいないようだ。 「チッ…逃げられたか……次にあったら殺してくれる」 怒りに満ちた表情をしながら彼女が呟いていたのは言うまでもない。 |