性悪魔術師が嘲笑った瞬間   1










「絶対嫌ですからね!あんな性悪魔術師と結婚だなんて…
大体婚約だって認めて無いというのに」



女は綺麗な顔を歪め、吐き捨てるかのように言った。



彼女の名はアリシア・クロレストラ。
クロレストラ王国の第二王女である。



灰色がかった長い黒髪に、淡いピンクの瞳。
白い肌に黒髪はとても良く映えている。
そんな完璧とも言える容姿を持つ彼女はかなり不機嫌だった。



元々綺麗な顔立ちは盛大に歪められ、いつも穏やかなピンクの瞳も
今では鋭く、冷たい光湛えている。




勿論その視線の先には結婚の話を持ち出した国王に向けられていた。

その視線に耐えかねたのか、国王が思わず溜息を付くと何かを喋ろうとするが、
アリシアの怒鳴り声によってその声はかき消される。






「大体、何故私なのですか?私じゃなくともシリアお姉さまがいるじゃないですか。
そうですよ。何故お姉さまじゃないんですか?
そもそも私があの男を嫌いなのを十分知っていますよねぇ?」





怒りを湛えたかのような黒い笑みに思わず国王の顔が引きつる。
美人なだけにアリシアが怒っているとそれなりの迫力があった。






「―――と、兎に角…シリアの奴は駄目だ。彼も…レイン君もシリアはヤダと言ってな。
だが、アリシア。お前なら良いそうだ」



「はぁぁぁぁぁぁあ?!?!」






アリシアはその言葉の意味を理解できず、口をあんぐり開けていた。

その顔はかなりアホ面だ。

その間に国王は逃げ道を確保すると最後に捨て台詞を残し部屋から出ていった。






「あとはレイン君とゆっくり話しなさい。すぐに彼が来るから!!!」




「あ、ちょっと!!お父様!!!」








アリシアの声が虚しく部屋に響き渡る。



兎に角あんな性悪魔術師なんかと結婚したら私の人生が終わってしまう。
大体…私はあんな奴と話すことなど何一つ無い。
アリシアは疲れたかのように溜息を付くと、部屋を出て行こうとする。


が、それはできなかった。


後ろから誰かが抱きしめたからだ。
勿論こんな事をする奴は私の知る限りたった一人しか居ない。




――――――奴だ…。




性悪魔術師、レインだ。









アリシアは後ろを確認するまでもなく、回し蹴りを繰り出した。
だが、白く長い足は標的を捕らえることなく宙を切る。



チッ…外したか……






「おやおや…舌打ちとは女の子の行動ではありませんね。
もう少し大人しく出来ないのですか貴女は――」






にこやかな笑みを浮かべながら青年は言った。
サラサラの銀色の髪が目に入る。
空のように透き通るスカイグレーの瞳。




男にしては華奢な体つきで、だが、年相応な雰囲気を醸し出している。



片手には何処から出したのか、杖が握られていた。
そう、この爽やかな笑みを浮かべている男こそ私の天敵――


レイン・アラストルだ。






現在奴と私の距離はゆうに数メートルは離れている。
今の今までしっかり抱きしめていたのにも関わらずだ。



本当にすばしっこい男だ。



次は絶対当ててやる。

そう心の中に誓いながらアリシアはレインを睨み付けた。








top next