水面下の花びら   6









今日という日をクロレストラ王国の国民達は楽しみにしていた。
そう、今日はクロレストラ王国の第二王女アリシア・クロレストラの結婚式なのだから。

誰もがアリシア姫は一番最後に結婚すると
考えていたものだからこのニュースは国中を騒がせた。


ゼバイル王子やシリア王女の方が先に結婚すると
誰もがそう思っていたのだから仕方がない。
それは本人のアリシアもそう思っていた。




「シリアお姉さまよりウエディングドレスを着るなんて考えもしなかったわ」


「そうかしら?私はなんとなーくそんな感じがしてたけど?」





ポツリと感想を述べるアリシアにシリアはにこにこ笑いながらドレスの調整をする。
白く繊細に仕上がったドレスはアリシアにピッタリだ。
長い黒髪は綺麗にまとめ上げられ、顔にはうっすらと化粧が施されている。
シリアは上から下まで眺めると満足そうに頷きにっこり笑う。




「こんな感じで良いかしら。アリシアちゃん、
くれぐれもドレスの裾を踏みつけて転ばないように気を付けてね」



「う……努力します」



「よろしい」





満足げに頷くシリアにアリシアは静かにため息を付いた。
そう、アリシアはいつも動きやすい方面を重要視し、
長い引きずるようなドレスは着ないのだ。
昔、そう言ったドレスを着たとき何回も転けてシリアやゼバイルに笑われた覚えがある。
あの二の舞だけは絶対したくない。
それがアリシアの本音でもあった。




「さーて、そろそろ時間だから行きましょうか」



「はーい」






シリアの言葉にアリシアはゆっくり慎重に立ち上がる。
なかなかこの高いヒールも慣れていないせいか足下がぐらつく。
その様子にシリアが呆れたように言った。




「そんなにユラユラしないの。背筋をピンっと伸ばして……
顎は出すぎないようにして……そうそう、それで最後は笑顔。そうすればバッチリよ」



「…………………」





そんな終始笑顔でいられるのはシリアお姉さまぐらいの者ですよ。
心の中で泣き言を呟きながらシリアの後を追い部屋の外へ出た。


いつもは騒がしいクロレストラ王国も今日は静かに感じる。
それもそうだ。人がいないのだから……
ゆっくりとした足取りで結婚式場の前まで来るとシリアは無言で頑張れ、
と、エールを送るとゆっくりドアを開く。



その先には自分と同じ白いスーツを身に纏ったレインが立っていた。
いつもとは違う大人っぽい雰囲気にアリシアは一瞬立ち止まるが、ゆっくりと歩き出す。
静かにクラシックが流れる中、アリシアは転けぬよう細心の注意を払いながら歩く。
レインの元にたどり着いたときは精神的に疲れるほどだ。
それをレイン自身も感じたのか、やさしく微笑むとアリシアに手を差し伸ばす。



そしてアリシアもその手を取ると教壇に上り、神父の前に並んだ。
アリシア達の周りを取り囲むのは国中の国民と、
遠いところからやって来てくれた友達たち……



緊張する中、二人の結婚式はおこなわれた。

もう二度と離さない、離れない……
二人の指に指輪がはめられた瞬間からそう決められた。







これからはずっと一緒だよ………







優しい光が立ちこめる中、二人は誓いのキスをする。


まるで二人を祝福するかのように鐘がその場に鳴り響いた。










二人だけの物語は今、ここから始まる……















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